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真珠の「てり」についての話 99%と100%

真珠科学研究所 小松 博

1.はじめに

私は、「てり」があるからこそ真珠は宝石であり続けてきたと思っています。
これは養殖、天然を超えた真珠の本質的な問題だとも思っています。
それ故機会がある度にこの真珠の「てり」についての見解を発表してきました。

真珠の「てり」とは何か、このテーマを真正面に掲げてこの十数年研究してきましたが、
その研究経過の中での中間的報告として、それらの見解を発表してきたわけです。

本年私は、この「てり」についてひとつの統一的見解に到達することができました。
振り返ってみて、これまでの諸見解には一定の誤謬があったことに気がつきました。
見解をそのまま信じてきた方についてのお詫びと訂正、
さらにはその統一的見解についての説明をかねて本レポートを発表する次第です。

2.1997年、「真珠てり光輝論」の発表

真珠の「てり」についての諸先輩が築いてきた理論をまとめ、
その紹介と測定という観点から得られた私たちの研究成果を発表しました。

内面光沢、表面光沢、透明度の三者を「てり」の量的側面とみなし、てり光輝と命名しました。
そしてそれは画像処理装置を使うことによって測定が可能であり、数値化でそれを示しました。

3.1998年、国際宝飾展での衝撃的出会い

1997年の「真珠てり光輝論」をもって私は、
真珠の「てり」についての基本的解明は99%完了したと内心では思っていました。
ところが、この年の宝飾展で見た淡水真珠は、この99%の自己満足を一蹴してしまいました。

「・・・先日の宝飾展での出来事です。ある真珠を見て、私は強烈な衝撃を受けました。
『こんな真珠見たことない』という衝撃です。

目を射るような強烈な光り輝きの中に、赤から青までの七色が、
周縁部から中心部まで全面ににじみ出ている真珠、
35年間まさに『こんな真珠見たことない』なのです。

聞けば中国産ヒレイケチョウガイ産出真珠とのことです。

驚きは現象面だけではありません。
私たちのこの10年間の努力の到達点であった『てり光輝論』の構成理論が
早くもほころび始めたことへのショックでもあったわけです。

アコヤ真珠にも黒蝶真珠にも存在しない特別な『てり』があったということ、
この現象はどういう光のメカニズムで起きるのかということ、
今また私たちは大きな壁を前にしています。

とりあえずこの特別な『てり』を超てり光輝と名付けることで、
私たちの出発点としたいと思います。・・・」

月刊『ジェモロジー』(全国宝石学協会刊)1998年8月号
小松「真珠とは何か、わが研究履歴から学ぶこと」より引用

4.1999年、さまざまな試行錯誤

今までの考え方が通じない現象を前にした時のとるべき行動は、
もちろん研究行動のことですが、サンプルをいろいろ集め、徹底した現象面の観察です。
中国産淡水真珠、黒蝶真珠、あるいはアコヤ真珠の
いろいろなサンプルを可能な限り集め、いろいろな角度から眺めることから始めました。

やがておぼろげながら、ピントはまだ合っていませんが、幾つかの像が浮かび上がってきました。
「七色の光彩は真珠の縁に出てくる」
「白よりも黒みを帯びた真珠に多く見られる」
「米国宝石学会(GIA)ではこれと似た現象をオリエントと称している」・・・・・・

同時に理論的仮説も作ります。
「これは光の回折現象ではないか」
「真珠層のカルシウム結晶層が極めて薄いのではないか」・・・・・・

さまざまな錯乱と混乱の繰り返しが続きました。
仮説設定、それの崩壊、さらなる別仮説の設定、その崩壊の繰り返しです。

5.2000年、ひとつの突破口

それは神戸の大学でまったく偶然に起きました。
光学の実験室で「ライトビュアー※」と呼ばれる装置の上に黒蝶真珠を置いた時です。
何と真珠の下半球に七色の光彩が出ているのです。

「てり」の良い黒蝶真珠は下からの光で下半球に光彩色が出る。
この現象がひとつの突破口になりました。

やっとひとつの像が輪郭を明らかにしてきたのです。
「黒蝶真珠を始めとするアコヤ真珠のブルー系、
淡水真珠のパープル系など・・・
濃色系・・真珠・は、・下・・から・の・・・拡散光・で・・・下半球・に・・固有・の・・・光彩色・が・・出る」
※蛍光灯を内部に入れたボックスで、スライド写真やレントゲン写真を見るのに使う装置

6.2001年、「オーロラ効果」と命名

「濃色系真珠は下からの拡散光で、下半球に固有の光彩色が出る」、
発見したこの事実は簡単な装置で誰でもが見ることが可能であります。

しかしこの平易性、すなわち誰でも見ることが可能な現象ということが、
逆にひとつの_縛となって、もうひとつ奥に隠れている事実の発見を長い間遅らせてきました。

もうひとつ奥の事実とは、濃色系真珠に限らず
淡色系の真珠にもこの現象は見られるということ、
さらに真珠を見る際の照明を上からの直射光と周りから来る拡散光に大別した時、
この拡散光で起きる固有の現象だということです。
まとめると次のようになります。

「すべての真珠は拡散光の下で固有の光彩色を出す。
それは『てり』の状態により色の種類や濃さを変える」

私たちはこの現象を「オーロラ効果」と名付けました。

7.おわりに

真珠にはふたつの「てり」があります。
ひとつは私たちが真珠を手にとって普通に見る時の「てり」です。
直射光で珠の上半球に出る「てり」です。

いまひとつは、直射光を遮断して拡散光のみにした時現れる「てり」です。

ふたつの「てり」はいつも存在しているのですが、
ひとつの方が強く出ているため、いまひとつの方は見えにくかったということです。

ところがこのふたつめの「てり」、「オーロラ効果」はなぜ出るのかという理論付けにも
私たちは取り組んできました。いろいろ自分なりの仮説を作ってみました。

先日、光学分野で世界的にも著名なH先生とお会いできる機会があり、
その点についてお伺いいたしました。

先生は私の説明にじっと耳を傾け、じっくりとお考えになられた後、
一枚の紙にすらすらと計算をし、その理論を見事に解明してくれました。

私も知っている光の干渉に関する一般式に特別の値を導入すれば
、「オーロラ効果」はきれいに説明できるのです。
ここに至ってやっと真珠の「てり」はほぼ100%解明されました。

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