真珠科学研究所 小松 博
真珠の本質はてりにある。
当研究所が、「花珠鑑定書」「てり光輝マーク」「オーロラマーク」などを発行してきたのも、この本質についての強調活動の一環である。
しかしこの真珠のてりという現象は、科学的に把握しようと思うと、予想を越えた複雑深遠な世界である。
中国淡水真珠の一部に通称“メタリック”と呼ばれる、一般の真珠にはほとんど見られない金属光沢様のてりを持った真珠がある。
同種のてりはマベや中国産アコヤ真珠の一部にも見られることが最近になって分かってきた。
この異質のてりについて、一般のてりとどういう点が異なるのか、現象面、構造面でいくつかの点が明らかになったので報告する次第である。
また鑑別・鑑定書を発行する立場から、一定の定義付けをしたので、合わせて報告する。
本題に入る前に、真珠のてりについての基本的事項を確認しておきたいと思う。
真珠のてりとは、真珠層表層部で起きる光の干渉現象である。
この現象は私たちの目に、色(干渉色、構成色、光沢色)と輝き(狭義のてり、輝度)として映じる。
この色と輝きを筆者たちはてりの2成分と呼んでいる。
次にこの色と輝きの出方について、鍵を握っているのは真珠層の構造である。
構造とは具体的に言うと、真珠層を構成している炭酸カルシウムの結晶の厚さと並び方である。
アコヤ真珠や黒蝶真珠などのこれまでの研究で、結晶の厚さが薄いか厚いかで色が決定され、並び方が整然としているか乱れているかで輝きが決定されることが明らかになっている。
3年前の1999年、筆者らは「淡水産真珠品質論」なるレポート(※)で、てり(光の干渉)を4種に分類した。先ずこれを紹介する。
(1) ホワイト系真珠に見られる干渉と同種の干渉
私たちが普通に見慣れているもの。大別してピンク系、グリーン系の2種の干渉色があり、その出現位置は真珠の頭頂部を中心とした場所である。
(2) 黒蝶真珠に見られる干渉と同種の干渉
黒色系の黒蝶真珠も赤色系と緑色系の干渉色を出す。しかしこの場合、色の出現位置はホワイト系と異なり、真珠の周縁部である。
(3) 金属光沢様の干渉
研磨した金属表面のような鋭い光沢を放つ。淡水真珠の一部に見られる。金属光沢と異なるのは、目の角度を変えると色が変わることから、光の干渉作用が何らかのかたちで関与していることが示唆しえる。
(4) オーロラ光沢様(仮称)の干渉
真珠の周縁部に七色の干渉色が浮き出てくる現象。淡水真珠の一部にも見られる。
※『真珠の雑誌』1999年冬号(真珠新聞社刊)
この間の研究の結果、いくつかの理論的進展があり、上述の現象は大別して3種にまとめられる。
(1) 真珠の上半球に現れる干渉色
上述(1)のホワイト系真珠に見られる干渉色とは、ホワイト系真珠の上半球に現れるそれを指している。
(2) 真珠の下半球に現れる干渉色
一方真珠の下半球にも、周囲からの・・・拡散光で干渉色は現れている(これは「オーロラ効果」と称している)。
黒蝶真珠やブルー系真珠など黒色系の真珠では、その干渉色の一部が周縁部に現れる。上述(2)および(4)の現象がそれである。
(3) 金属光沢様の干渉色
この現象の最大の特徴は輝きが極めて強いことである。
当研究所の真珠光沢測定装置でてりち光輝値(Ymax値、W値、dH/W値(※1))を測定したが、アコヤ真珠や黒蝶真珠の最高値よりはるかに高い値を示している。
また干渉色も異質である。それは「オーロラ効果」に明瞭に現れる。
一般の真珠でてりの良いものは、「オーロラ効果」でグリーンが鮮明に出るのに対し、このてりの場合黄緑から黄色が鮮明に出る。
これらの現象的特質は真珠層の構造解析で説明がついた。
【表1】は、このてりを持つ淡水真珠および中国産アコヤ真珠の炭酸カルシウム結晶の厚さを測定したものである。
明らかに一般の真珠のそれよりより薄く0.2ミクロン前後である。
これはすでに明らかになっているマベの真珠層のそれに類似する。
| 表面からの深さ(ミクロン) | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0〜10 | 〜20 | 〜30 | 〜40 | 〜50 | ||
| 淡水真珠 | 超てり | 0.2 | 0.22 | 0.22 | 0.22 | 0.23 |
| てり良 | 0.36 | 0.32 | 0.32 | 0.34 | 0.33 | |
| 中国アコヤ超てり | 0.2 | 0.19 | 0.21 | 0.23 | 0.21 | |
【表1】真珠層内結晶層の厚さ(ミクロン)
結晶層が薄いということは、並び方が整然としていれば、一般の真珠の真珠層より光の層内反射が倍近く多くなることを意味する。
また、結晶層の厚さと干渉色の関係を表した式(ηλ=2dcosψ′)より算出すると「オーロラ効果」の黄色も照明できるのである(※2)。
※1:光輝値についての詳細は、当研究所刊の小松博著『真珠グレーディング論』を参照すること。
※2:「オーロラ効果」に関する理論的論文は近日発表の予定。
それは神戸の大学でまったく偶然に起きました。
光学の実験室で「ライトビュアー※」と呼ばれる装置の上に黒蝶真珠を置いた時です。
何と真珠の下半球に七色の光彩が出ているのです。
淡水真珠は、マベ真珠、アコヤ真珠などの一部に、真珠層を構成する結晶層が極めて薄く(通常の結晶層のほぼ半分)、しかもそれらが表層内で整然と積み重なって配列している場合がある。
この「結晶層が極めて薄く」、「整然と積み重なって整列している」という必要十分条件を満たした時、金属のような輝きと特異な光彩を放つ真珠のてりが現れる。
私たちはこのてりを「超てり」と命名したいと思う。
そしてそれは、てりち光輝値と、「オーロラ効果」の色彩領域という二つの規定で、厳密に定義付けをしたいと思う。