伊勢志摩の宝石 真珠~海が生み出した神秘の輝き #217 2014.6.1

テレビ朝日 奇跡の地球物語  毎週日曜日 18:30より放映
6月1日は伊勢志摩の真珠(ミキモト)を特集してくださいました。
画像は残念ながら残っていませんが、素晴らしい出来だったので文章で味わってください。



伊勢志摩の宝石 真珠~海が生み出した神秘の輝き~
伊勢志摩国立公園。
温暖な気候と、リアス海岸の作り出す入り江が世界に誇る、宝石を生んだ。

美しい光沢で、世界でも評価が高い真珠。
三重県・英虞湾は、世界で初めて養殖に成功した真珠ゆかりの海。
ほのかなピンク色と上品な輝き・・・
それは、どのように生まれるのか?

伊勢志摩の真珠養殖。
美しい輝きを生み出す10ヵ月を追った。

-三重県・英虞湾-
海が生み出す宝石「真珠」の養殖場に異変が起きていた。
真珠の養殖を研究している、永井清仁さんが(養殖場)現場へ向かう。
港から100m沖合。ブイの下に、アコヤガイが吊り下げられている。海の色に目を凝らす・・・
永井「かなり来てるな・・・これ。赤潮が発生していますね。」
赤潮とは、プランクトンが異常に増える現象で、最悪の場合、アコヤガイは全滅してしまう。
永井さんの表情が険しくなった。アコヤガイは、そして真珠は大丈夫なのだろうか?
真珠養殖の研究者・永井さんが感じた海の異変はほんの僅かなもの。
永井「本当ですと、いつも綺麗なグリーンの色をしているんですけど、ちょっと暗い感じがしますね。」
言われてみれば、海が僅かに濁っているようにも見える。一体何が起きているのだろう?
永井「良いプランクトンと悪いプランクトンがいて、良いプランクトンは貝の栄養になりますけど、悪いプランクトンは貝の負担になってくるんですね。」
海水を採取し、分析するために研究所に戻る。永井さんには苦い思い出がある。

20年前・・・英虞湾の真珠に最大の危機が訪れた。
永井「貝を攻撃するプランクトンが出てきたんですね。最終的に(アコヤガイの)心臓が止まってしまう」
原因はヘテロカプサというプランクトン。これまでに全国で100億円に及ぶ被害が出た。
永井「貝がバタバタ死んでいく時っていうのは、本当に苦しい思いです。もう本当に・・・英虞湾では養殖できないかと思った。」
赤潮には、海を赤褐色に汚すイメージがある。海の色が少し茶色っぽくなる程度の赤潮でも、発生しているプランクトンによって、甚大な被害をもたらすことがあるのだ。
今回の赤潮にヘテロカプサのような有害なプランクトンが含まれていないかどうか・・・慎重に分析を進める。
検査の結果はいかに?
幸い、今回の赤潮はアコヤガイに影響のないものだった。
永井「私たちができることは、異常な環境から貝を守ってあげること。それには私たちは海の環境をよく知らなきゃいけないんです。」
美しい真珠を生み出すには、微妙な海の変化を24時間監視しなければならないのだ。
永井「朝起きて寝るまでずっと。寝てても(夢に)出てきますから。貝が死んでえらいことになって悪夢になっちゃう。」
20年前、英虞湾を襲った赤潮の被害。しかしそれは、損害と同時にアコヤガイを守る貴重な発明をもたらした。
ヒントになったのは、猛毒の赤潮ヘテロカプサに対するアコヤ貝の反応だ。
アコヤガイを入れたビーカーに、ヘテロカプサを入れる。数分後、アコヤガイが開閉運動を始めた。
永井「実は、貝っていうと通常は開いている。ところが外敵が来ると閉じて守っていくわけですね。この開閉運動を捉えることによって、外敵が来ているかどうか?・・・というのを察知するわけです。」
アコヤ貝の開閉運動をどうやってモニターするか?
永井さんたちは、貝の片方に磁石、もう一方にセンサーを取り付けた。
養殖場のすぐ脇に、ソーラーパネルを設置した筏がある。パネルから延びたケーブルをたどると、アコヤ貝につながっている。有害な赤潮の発生を知らせる、特別な貝だ。
永井「これがセンサーですね、その反対側に磁石が付いていますね」
貝が危機を察知して、開閉運動を始めると・・・監視室にメールの着信音が鳴り画面には危機が起こった場所と、『タスケテー』の文字が出る。
永井「やっぱり貝が苦しんでいるそのメッセージを感じたいということで『タスケテー』と(表示されるように)しています。」
名付けて『貝リンガル』。海の異常をいち早く知らせ、アコヤ貝の被害を未然に防ぐ優れものだ。

日本の夕景100選にも選ばれている英虞湾の夕日。
9月初旬、研究所が突然慌しくなった。貝リンガルが、赤潮の発生を知らせてきたのだ。
送られたデータをチェックする。
研究員「すぐに対応する必要があるね。」
グラフは、有害な赤潮の発生を示していた。一刻も早い対応が必要な、緊急事態だ。
現場へと向かう、永井さんの表情も険しい。
もし、20年前と同様の赤潮なら、最悪の場合、アコヤガイが全滅することもあり得るからだ。
問題のポイントに到着した。
永井「どんどん吊り上げてって。」
急いで網を上げる。
永井「深さは?」
作業員「浅く!」
貝を吊っているロープをたぐり、縛る。浅いところに貝を引き上げているのだ。
永井「水深の深い層に今赤潮が発生していまして、浅い層にはまだ赤潮がきていない。赤潮プランクトンがいない層に貝を移動させます。」
赤潮は、様々な深さで発生する。そこで、水深8~1mまで、様々な深さに貝リンガルのセンサーが設置されている。今回反応したのは水深5m。そこで、安全な水深1mまで引き上げたのだ。
素早い対応は、貝の命を守るだけではない。真珠の美しさを左右する、重要な作業だ。
永井「例えば赤潮とか異常な環境があると、そこに(真珠に)乱れた層ができるんですね。それは真珠に残っていくんですね。アコヤガイの生命の履歴が残っているんです。」

真珠の養殖は、貝の殻でできた核を入れる作業から始まる。
アコヤガイは体内に異物が入ったことを感じると、体を守ろうとして貝殻と同じ物質で核を包む。

そして、海の中でじっくり2年間かけ出来上がったのが真珠層だ。
毎日わずか0.3μ、つまり3/10,000mmという、非常に薄い真珠層が積み重なって真珠となる。
赤潮などのストレスがかかると、この層に乱れが生じ、輝きを失って売り物にはならない。
真珠層が少しずつ均等に重なって生み出す、柔らかな輝きが真珠の価値を決める。ダイヤモンドなど、加工して輝きを生み出す宝石とは、根本的に違うのだ。だからこそ真珠作りは毎日が戦いとなる。
永井「海外旅行の予約をすると赤潮が出るんです。2日前の直前に出てキャンセル。ほとんど全額取られた。」
結婚してから20年、ずっと単身赴任でアコヤガイを見守ってきた永井さん。海の状況はいつ変化するか分からないからだ。

秋の紅葉が伊勢志摩を覆う11月中旬。
木々も色づくこの季節、真珠の収穫「浜揚げ」が近づく。秋に行われる大事な作業が、海水の温度のチェック。
この時期の水温の変化が、真珠の輝きを大きく左右する。つまり、一粒一粒の値段を決めるからだ。
永井「水温とアコヤガイっていうのは密接に関わっていて、水温によって低下して行くと輝きを増すんですね。」
水温が高い夏、アコヤガイは活発に活動し、厚い真珠層を作る。ただし、厚い真珠層はあまり美しいとは言えない。
秋から冬へ向かい、水温が18~14℃の範囲まで下がると、アコヤガイは活動を弱め、薄く透明感のある美しい真珠層を作る。これを『化粧巻き』という。
永井「ゆっくりと安定して(水温が)下がって行くのがいいんですね。ここで急激に水温が上がると乱れた層ができてよくない。」
徐々に海水の温度が下がってゆくことで、高い品質の真珠が生まれる。
逆に水温が13℃を下回るとアコヤガイは冬眠し、真珠の輝きは濁ってしまう。
そのため13℃になる前に収穫をしなければならない。だからこの時期の温度管理が品質の鍵を握っているのだ。
渡部教授「海の水温が徐々に下がる気候が大事なんですね。それがまさに日本の四季なんです。日本の四季があったからこそ、真珠の養殖が盛んになって世界でも冠たる品質のもっとも高い真珠ができたということだと思います。」
世界に誇る、真珠の輝き・・・それは、おだやかな四季の移ろいのある日本だからこそ生み出せる美しさだった。

-12月・浜揚げの日-
地元の海女さんたちも、作業を手伝う。
この冬浜揚げするアコヤガイは20万個。今年の出来はどうなのか?
永井「やっぱり期待と不安で・・・やっぱり開けてみるまでが・・・上げないとわかりませんけどね。」
アコヤガイに核を入れてから2年。丹精込めて育てあげた真珠を、海から引き上げる。
今年の真珠の予想を聞いてみた。
(スタッフ:今年の貝の出来はどうですか?)
作業員「開けて見ないとね・・・。まだ始まったばっかりだし。」
貝がどんなによく育っていても、真珠の出来は開けてみないと分からない。
今年の真珠はどうなのか?永井さんが一番緊張する瞬間だ。
ようやく迎えた真珠の浜揚げ。商品になるのはわずか5%と言われる養殖真珠の世界。
果たして今シーズンの出来はどうなのだろうか?最初の一粒を確認してみる。
永井「輝きもすごくいい。色もピンクがかって、キレイな珠ですよ。完璧に近い!」
貝から取り出したばかりの真珠は、美しいピンク色に緑がかった複雑な光沢をたたえていた。最高の出来映えだ。
永井「私も最初は、真珠というものを『モノ』としてみていました。だけど実際には、その背景には自然環境と生き物との調和ということを本当に勉強させられました。まだまだわからないことがたくさんありますけど、少しわかってきたということがとても嬉しい。この仕事をやってよかったなと思います。」

日本が世界に誇る、伊勢志摩の真珠。
アコヤガイの神秘の力と、人々のたゆまぬ研究の成果が奇跡の輝きを生む。

<出演者>
真珠研究所/所長・農学博士 永井清仁氏
北里大学海洋生命科学部/教授 渡部終五氏

Canon presents 奇跡の地球物語

【予告編】